• 参議院選挙 2016

    “ R E A L ”

    − 保育園編 − vol.0 藤井伸生

     

    ―話題となった待機児童問題ですが、簡単に経緯を整理して頂いても良いでしょうか。

     

     「保育園落ちた日本死ね」というブログ(http://anond.hatelabo.jp/20160215171759 )を発端に浮かび上がった問題です。保育園というのは0歳~5歳のお子さんがいる、保育が必要な方々のためにあるわけですが、その保育園に入れないという問題が生じていると。保育所がないと職場復帰ができません。つまり仕事を辞めなければならなくなる。そうすると経済的にもマイナスだし、子どもにとっても育つ環境が貧弱になりかねないわけです。
     現在少子化で子どもの数は減っており、一方で保育所の数も増えてはいるんです。でも、共働きの世帯がどんどん増えている。お父さん1人の収入だけでは家計がやりくり出来なくなってきたんです。
    去年の4月1日時点で保育所に入りたくても入れなかった人が、国の調査で23167人。近畿だと滋賀が346人、京都が6人、大阪で1365人、兵庫で942人、奈良253人、和歌山18人。ただ、厚労省が決めた「待機児童」の概念は、かなり条件を絞り込んであるんです。だから実際は、これ以上いると言われていて、国会でもその点が指摘された。

     

    ―つまり、「隠れ」待機児童がいるのではないかと。

     

     はい。そこで各都道府県で調査が行われたんです。厚生労働省の塩崎大臣は3月18日の国会で「隠れ」待機児童が49153人、5万人近くいることを発表しました。

     

    ―どんな児童が「かくれ」待機児童になるんでしょうか。

     

     例えば、現在の保育の制度に小規模保育(2歳までを預かる)というのがあるんですが、その制度では3歳になるともう一度入所の手続きをしなければならないんです。これは2014年まではやむをえない措置として、つまり認可保育所が足りない時に”間に合わせ”として作られた制度だったんです。だからかつては待機児童としてカウントされていましたが、現在はされていません。
    あるいは、遠方保育所を断ったケース。職場と反対方向の保育所を「ここなら空いてる」と薦められて断る方は相当数いるんですが、そういう方たちは「わがままだ」とされて待機児童に数えられていないんです。
     そして、育児休暇を延長をしているケース。制度的には1年半まで育児休暇は延長できるんですが、保育所が見つからなくて延長する方がいるんです。育児休暇の間は5割ほどの給付金が出ているんですが、延長した場合は所得補償がなくなるので収入がゼロになるんです。こんな風に、所得補償はないけど、子どもを預けるところがないから育児休暇を延長した方も「隠れ」待機児童にカウントされるんです。
     あとは、幼稚園というのは教育機関で、3歳以上の子どもを5時間くらい預かって保育をする所ですよね。でも今、それだけでは子どもが集まらないので、夕方5時や6時まで子どもを預かる「預かり保育」をやる幼稚園が増えているんです。そして行政も積極的に「預かり保育」への斡旋をおこなっている。でも幼稚園では長くても夕方5時、6時までしか預かってもらえないし、夏休みがあるんです。だから、やっぱり共働きの方は「預かり保育」ではなく、保育所に入れたいわけです。こういった方々も「隠れ」待機児童に入るんじゃないかと思っています。

     

    ―待機児童だけではなく、待機児童にすらカウントされたなかった方々の怒りも鬱積しているわけですね。

     

     保育所というのは、児童福祉法に位置づいてる施設ですが、児童福祉法の24条第一項というのはこんな条文なんです。「市町村は…(略)保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所において保育しなければならない。」これはつまり、市町村に保育の実施義務があるということなんです。だから、この児童福祉法24条第一項を素直に読むと、待機児童や「隠れ」待機児童は、法律違反の状態なんです。そして、この条文を見ると市町村の責務は明らかなのでそこを追及することはとても重要なんじゃないかと思います。

     

     

    ―保育所を作っても保育士が足りないという問題もありますよね。

     

     保育士不足が何によってもたらされたかというのは、この間かなり問題視されてますね。特に、保育士の待遇が悪いことが問題視されています。

     2015年の職種別の月給をまとめた資料によると、一般の労働者の平均月給が30万4千なのに対して、保育士の平均月給は21万9千円。10万近い差があるんです。女性労働者が多い看護士でも32万9千円、高校の先生は42万が平均の給料。保育士がとても低い待遇で働いていることがわかります。保育士養成校は全国にたくさんあるので、有資格者は数多くいるわけですが、待遇の問題で二の足を踏むということですね。そして待遇が低いと、長く働くことも難しくなる。
     もちろん給料だけではなくて職員配置の問題もある。たとえば3歳児については20人の子どもを1人の先生が見ているのが現状で、とても忙しい。しかも保育所は朝7時から夜7時の12時間くらいあいていて、早出や遅出を含めた8時間のシフト勤務になるのでとてもきつい。そんな中で思うように1人1人の子どもと向き合えないつらさというのもある。
     今日(3月23日)は国会で市民が待遇改善を求めるアクションがありましたね。最低月給を5万増やしてほしいという内容でしたが、私は10万でも良いと思います。


    ―今の財政事情では待遇改善は難しいのでしょうか。

     

     予算を組み替えるということは、何処かを削るという事になるので、難しい面はありますが、何がより重要なのか再度議論をしてほしいです。
     よく、保育や福祉関係の予算は消費税を上げないと補えないという議論に持ち込まれるので、そこで税制度をどうするか、という問題が出てくるんです。ただ、今消費税を10%にするか否かについて議論されていますが、消費税を上げられる状況ではありませんよね。
     私の持論としては、保育に関係する予算の財源はもっと企業が負担すべきだと。結局、保育というのは夫婦共働きを保障する条件なので、女性労働を使って利益を上げる企業が負担をするべきだと思うんです。
     安倍さん自身も言っているように、子どもが減ると、労働力不足になる。そして、日本の女性は働く率が低い。でも、女性が働けば経済発展につながるし、女性が働けば個々の会社にも利益が上がっていくわけです。そういう観点から言うと、女性労働者を雇う企業にも相応の負担をする責任があると思うんですよ。フランスなんかはまさしくこういう発想。つまり、子どもを育てるのは社会全体の責務だし企業も大いに負担しなくてはいけないということです。フランスでは、保育や子どもに関係する財政負担の、50%強を企業が担っているんですよ。日本は残念ながらそういう発想がとても弱く、そこをどう変えるかということは大きなテーマだと思います。
     
    ―大企業だと会社の中に保育園があったりしますけど、その負担が厳しい企業がほとんどですよね。

     

     大企業というのは福利厚生といって、自社の利益から自社の従業員だけに対して保育の負担を請け負って、自分の企業評価を高めるみたいなことをするんですが、それはちょっと姑息なやり方ではないかと思ってます。大企業は中小零細企業からも利益を上げているわけだから、一定財源を出してそれを社会全体にプールして、地域の保育所にお金を使っていくというのが筋じゃないかと思うんですよ。
     子どもにとっても、職場に連れて行かれることに善し悪しあります。たとえば、満員電車に乗っていったりもしなくちゃいけなかったりする。
     それに、企業の中の事業所内保育で作り上げた一定の子ども集団は、小学校になると変わってしまう。保育というのは地域、つまり小学校区単位くらいで保育所を整備して、そこでの子ども・親集団が小学校につながるのが理想的だと思うんですよね。
     だから企業が自社の社員だけのために職場内に保育制度を作るより、地域の財源を後押しする形でお金を出す方が理にかなっていると思います。そして、そういったシステムは、国の法律で保証しないと難しい。現在はそういう制度がないために、企業も優秀な職員に辞められると困るので、とりあえず事業所内保育をやったり、ベビーシッターのための給付金を配ったりするんですが、それじゃ問題解決にはならないところもあるとは思うんですよね。

     

    ―今日はありがとうございました。